dominagames
また、出会った。
牛男は相も変わらず殺意を漲せて迫り来る。許してくれそうな気配はない。
無我夢中で逃げた末、あなたは古びた洋館の門をくぐる。
敷地は迷路になっていた。葉を尖らせて、行手を複雑に遮る巨大な生け垣。
巨人も追ってきたが、壁をぶち破るような真似はしなかった。幅の広い道を律儀に追ってくる。
貴族趣味の庭園を見て、あなたはポリコロニアの怪人の伝承を思い出す。
商家ポリコロニアは牛人を飼っていた。名をフスカスと言う。
人間離れした風貌を持つ彼は、その実直な性格にも関わらず奴隷同然に扱われていた。
耐えかねたフスカスが暴れだしたのは、母国の敗戦によりポリコロニア家が没落した折だ。
一方で令嬢リジェカは、哀れな使用人の心に誰よりも寄り添っていた。
彼女は思いやりによってフスカスを制御し、父を含めた無能な親戚たちを一掃したのだ。
豪腕に抱えられて心地よく、しかし支配者がそこに自分を委ねきることはない――
「無駄の多い設備だと思うかしら」
あなたは立ち止まった。
行く手の空間を何かが裂いたのだ。生け垣の一部が欠け落ちる。
曲がり角から現れたのは洋館の主人。夕日を背に、地面に長い影を落としている。
「事業の成功は、人々からの評価にかかっていたの。
成功しているという演出は、成功のために何よりも必要な投資だった」
肩の出たドレスに身を包み、統治する者としての風格を見せるうら若い少女。
前方を彼女に阻まれ、背後からは当然のように牛が追ってきている。挟まれた!
「もっとも、ここに至っては何を取り繕う必要もないのだけれどね。
だから薔薇の使徒、端的に聞くわ。ヴェロニカはどこにいるの?」
ヴェロニカとは、死から身を守る力をソーディアに与える不滅のイデアの名だ。
ソーディアでその名を知らぬ者はいないが、かと言って所在など分かりようもない。
知らないとあなたは答える。そもそもイデアに居場所などあるのか?
リジェカは頷いた。
「おそらくは本当なのでしょうね。でも万が一ということも考えられるわ。
あなたの腕の一、二本でも折ってからゆっくり話し合いましょう」
フスカスが動き出す。鼻から蒸気を噴出し、踏み出す一歩ごとに足元が煙る。来るな。
「わたしたちはね」
リジェカの右手に細長い獲物が出現する。鞭だ。
「ヴェロニカとその一派を、許す訳にはいかないのよ!」
鞭は青く輝いて、あなたが持つ力を取り立てようと権利を主張した。
ついぞ逃げ道はなくなった。しかし今ならば、あなたの手にも力があるはずだ。
――呼吸を整えよ。剣をその手に取れ。交戦だ!